生きてみたいって思いたいし、おいしいものはおいしい

どうでもいいことも言葉にしてみたら楽しいかも

おっちゃんと蟹-前編-

先日一人旅に出かけた。青春18きっぷでの電車旅だ。移動手段は在来線のみのため、乗換が多く、その選択が肝となる。特に地方では電車の本数が少なく一つ間違えるとかなりのロスで、次の電車が来るのを気が遠くなるほど待たなければならない場合もある。

 

最終日の鳥取駅発の一両の列車。車内はほどほどに空いていて余裕がある。私は向かい合わせの席の片側に座った。もう片側には年配の男性が座っていた。

東野圭吾の最新作を読みつつ、車窓からの景色を眺めながら次の乗換駅を目指す。家までは10時間以上かかる。今日は家に帰るだけの、単なる移動日だ。

活字に目が疲れて顔を上げた。

「学生さんですか?」

向かいに座っていた男性が私に聞く。なんならアラサーと言ってもいい年齢の私は少し狼狽えて答える。

「あっ、いえ、社会人…です」

先日退職し絶賛ニートで一人旅満喫中の私はなんとなく誤魔化してしまう。

その男性も青春18きっぷで旅行中らしく、姫路に帰るらしい。岐阜へ帰る私も姫路を通過予定のため、途中まで帰路は同じだった。

どこで乗り換えるのか、という話になると、私の予定する乗換ではかなりロスがあり、もっと効率よく帰る方法があると教えてくれた。前日宿泊したホテルで調べてもらったという、乗換駅がプリントアウトされた紙を見せてくれた。

確かに、かなり効率のよい乗換だ。割と大きめの駅を通過するから、一本逃したとしても待ち時間で悩むことはなさそうだ。スムーズに帰れそうなこのルートに変更することにした。

 

「よし、そんなら姫路まで一緒に行くか!」

 

5分前に話したばかりのおっちゃんとの電車旅がはじまった。