生きてみたいって思いたいし、おいしいものはおいしい

どうでもいいことも言葉にしてみたら楽しいかも

おっちゃんと蟹-後編-

おっちゃんは青春18きっぷで何度も旅をしているらしく、旅先の話や電車の楽しみ方について話してくれた。私はとっくに、この人には着いて行っても大丈夫そうだと判断していた。
姫路に着くのが14時半頃の予定。その前にどこかで昼食をとりたい。

「よし、城崎で降りて蟹食うか!その後の電車の時間調べてみな」

城崎で下車したあと、1時間半後の電車に乗れば問題なく帰路につけそうだ。食事するには丁度良い時間がある。

城崎温泉駅で降り、蟹丼を食べた。俺はビール飲むからと、注文したイクラ丼を少しくれた。蟹じゃないんかい。

発車までまだ時間があったので喫茶店に入った。おっちゃんは初めての喫茶店でも常連みたいに座る。マスターと世間話をして、タバコが吸えない店が多すぎることに苦言を呈しながらタバコを吸っていた。

 

駅に戻ると、写真を撮ってやろうかとおっちゃんが言う。それならと城崎温泉と書いたデカい看板を背景に撮ってもらう。ここを押してねとスマホを渡す。1秒の動画になっていた。

 

姫路に着き、せっかくだからと駅を少し出て遠目に姫路城を見る。撮ってやろうかとおっちゃんが言う。1秒の動画が2つ撮れていた。

GIFぽくて気に入った。

 

姫路駅で人気らしい御座候をお土産に買ってくれた。この辺で言う今川焼きかな。

「帰りの電車で食べて俺のこと思い出しな」

危ない、80歳に惚れるところだった。

とても良い別れの台詞だ。

 

感謝を伝えて別れる。おっちゃんのおかげで、帰宅するだけのただの移動日が忘れられない旅の思い出になった。

偶然あの電車に乗っていただけなのに、一つの出会いが一気に濃厚にさせる。

「これだから旅は面白いんだよ」

おっちゃんのその言葉が心に沁みて響く。初めての一人旅でこの感覚を得ることができた私はかなり強運かもしれない。味を占めた。

旅って面白い。

 

おっちゃんは帰りの電車で食べなと言ったが、車内は混み合っていて御座候を食べるような雰囲気も勇気もない。しかも車内で飲食をすることについてのマナーは曖昧だし、周囲にも気を遣うので普段はしない。

 

2時間程電車に揺られていた。やっと席に余裕ができたので窓側の席に座る。どうしても今、ここでしなければならないことがある。車内の人、ごめんなさい。今日は許してください。

 

御座候に食らいつく。

あまくておいしい。

 

おっちゃんありがとう。

またいつか旅の途中で会いたい。